ひとりごとのように

独身女が趣味で好きなことを書いてます。

コンビニで会ったおばあちゃん。

久しぶりに卵焼きを作ったら、信じられない程酷い仕上がりになった。チーズと枝豆を入れて焼いたのだが、チーズは卵焼き本体からほとんど漏れ、枝豆にいたっては綺麗に飛び出し、そこにはただの焼いた枝豆が転がっていた。

 

お皿にのせ、テーブルに置いた瞬間「こんなのいや!」と思った。そしてパーカーを羽織り近所のコンビニへ向かった。

コンビニで何か買って、それと一緒に食べようと決めた。

 

家から2分程にあるコンビニ。

すぐにおにぎりやお惣菜コーナーへ向かった。

するとそこに、腰が曲がった小さなおばあちゃんがいた。

おばあちゃんは杖をつき、ぼーっとお惣菜を見ていた。横にはバナナが入ったカゴが置かれていた。

 

時刻は18時半。

よく行くコンビニだが、夜におばあちゃんがいるのは珍しいなと思った。

何かを手に取る様子もなく立ち尽くしていたので、これはなんか心配だなと思った。

 

さりげなく隣でスープを物色していたら、おばあちゃんが話しかけてきた。

 

「何が美味しいかしら」

 

(わ!話しかけてきた!)

 

ちょっと緊張しながらも「これだけあると迷いますよね」と答えた。

 

するとおばあちゃんは「そうなの。どれがいいかしら。いつもはね、おじいさんが買ってきてくれるんだけどね、おじいさん脚を痛めてねぇ」と、ここまできた経緯を話し始めた。

 

いつもは息子やおじいちゃんがスーパーに行ってくれるらしいが、今日は息子は仕事で行けない。おじいちゃんは最近まで入院していて今も脚を悪くしているんだそう。

 

ふと、おばあちゃんの腕を見ると包帯が巻かれていた。

「これね、畳で転んじゃって骨が折れちゃったの。」

 

「え、折れちゃったんですか?大変…」

 

こんな時、気の利いた言葉が出てこない自分がいやだ。

 

「歳を取ると大変よ、本当に。いつもはね、おじいさんが買い物行ってくれるんだけどね」

 

と、再び経緯を話してくれた。

 

「カゴ持ちますよ!」

「あら、悪いわねぇ。ありがとう」

 

そこから10分ほど、おばあちゃんとおじいちゃんが食べるものを選びレジまで持って行った。

 

「ありがとうございました。助かったわ」

 

そう言って別れ、わたしは自分のご飯を選んだ。

 

「袋いらないです」

「箸もいらないです」

「Suicaでお願いします」

 

いつも通りのやりとりをし、帰ろうとするともう一つのレジにまだおばあちゃんがいた。

 

「袋?ないわ。ほしいわ。入れてもらえる?」

「お箸?じゃあもらおうかしら」

「ポイントカード?え?なぁに?」

 

現金で支払い、財布を自分のバッグにしまう。

ここまでの動作がとてもゆっくりなのである。

 

 

「袋いらないです」

「箸もいらないです」

「Suicaでお願いします」

 

そんな定型文はおばあちゃんにはないのである。

そうだよなぁ。わかんないよなぁ。

 

 

店員は商品を袋に詰め終わり、待っていた。

おばあちゃんは財布がうまくバッグに入らず、中のものを出してから、また入れ直していた。

その時は支えである杖を横に置いとくわけだから、とにかく一つ一つが大変な動作なんだなと思った。

 

そんな様子を見ていたら、これはもう行くしかないと思った。

「袋わたしが持ちます」と店員に声をかけた。

 

おばあちゃんが買ったスープを温め、それをバナナや冷たいお惣菜と一緒に入れた店員に少しイラッとしたが、おばあちゃんが一緒でいいって言ったのかもしれない。

(というか、温かいものと冷たいもの買ってレジ袋欲しかったら2枚購入ってこと?)

 

店を出て「ありがとう、もうここで大丈夫」とおばあちゃんは言う。

 

「家近いですか?」

「うん。近いから大丈夫よ」

 

外は真っ暗だった。

 

「家まで持ちますよ。わたしも近いので」

「悪いわねぇ。いつもはね、おじいさんがスーパーに行ってくれるの」

おばあちゃんまた同じことを話す。

可愛い。

 

おばあちゃんの言う通りの道を進む。

すると、突然立ち止まるおばあちゃん。

 

「あら?ここどこかしら」

「暗いとわからなくなりますよね。コンビニからまっすぐ歩いてきたとこですよ」

「あらそう…わからなくなったわ」

「今、目の前には○○ハイツがあります」

「えーと、わたしの家は△△団地っていうの」

 

Googleマップで団地名を検索すると、もう少し先にあることがわかった。

 

「あと少し歩いたらあるみたいですよ」

「あら、よかった。ほんと助かったわ」

 

 

おばあちゃんの家はコンビニから10分弱のところにあった。

しかし、おばあちゃんの歩くスピードなら倍以上かかるだろう。

 

団地に着くと、

「郵便をチェックしなくちゃ」とポストを開く。中にはチラシが数枚。

おばあちゃんなぜかチラシをわたしに渡す。

どういうこと?笑

 

エレベーターで上がろうという時、おばあちゃんにおじいちゃんから電話がかかってきた。

なかなか帰ってこないから心配したのだろう。

 

電話も歩きながらではない。一度立ち止まって話す。そして切って、携帯をバックにしまってから再び歩き出す。

 

一つ一つの行動が、自分と違いすぎた。

当たり前なのかもしれないけど。

 

おばあちゃん、家の鍵開けっぱなしだったので

「ちゃんと鍵閉めてくださいね!」

と伝え、鍵が閉まる音を確認してから帰った。

 

 

家に着いた頃には、おばあちゃんが買ったスープは冷めていたと思う。

それでも無事におじいちゃんと二人、ご飯が食べられたのならわたしは嬉しい。

 

 

自分の家に着き、爆破した卵焼きを食べながら、コンビニでおばあちゃんが「あなたの爪いいわね。おしゃれね」と言ってくれたことを思い出した。

 

歳を重ねてもおしゃれを気にしてるおばあちゃんは素敵だなと思った。

 

そしてなぜか涙がでそうになった。

おばあちゃんはわたしに、忘れがちな優しい気持ちを取り戻させてくれたような。

そんな気がした。

 

「ありがとう」を繰り返していたおばあちゃん。

ありがとうはこっちの方だよと思った。